はじめに
前回は理学療法士について記載し、その中でも「予後予測」が理学療法士は特に優れていると述べました。
「予後予測」とは、その方の身体の能力や全身の筋肉量などの身体的要因、持病の有無などの病的要因、交友関係や運動習慣などの環境・個人的要因から総合的にみて、その方の身体能力がどのように変化していくかを予測することです。
前回の理学療法士についてでうめ子さん(架空の人物)を例に挙げていますので、まだ読んでいない方はこちらからどうぞ。
予後予測は専門知識があればより詳細かつ正確に判断できますが、専門知識がなくても人間の老化の順番とポイントを把握すればある程度の予測をすることができるので、今回は専門知識がなくてもできる予後予測について解説していきます。
専門知識がなくてもできる予後予測の仕方
まずは人間の老化について解説します。老化の順番を知れば次のような思考ができるようになります。
次は○○ができなくなるから注意して観察しよう。
それと、できなくなる前に何か対策をとろうかな。
結論から伝えると、人間は老化すると「赤ちゃん返り」します。
赤ちゃんは寝返り→起き上がる→座る→立ちあがる→立った状態を保つ→歩く→走るという過程で成長しますが、高齢者の場合は走る→歩く→立った状態を保つ→立ちあがる→座る→起き上がる→寝返りというように真逆の過程を辿ります。
さらに深堀りすると下記のようになります。
自分の体重以上の負担を片足で支えられる
片足で全体重を支える
立った状態で左右の足に体重の移動
立った状態を意識的に保つ
足の力を使って全体重を重力に逆らう
座った状態で動いても倒れずバランスを保っていられる
座ったままの状態を維持できる
腕と体幹の力を使って上半身を重力に逆らう
寝た状態から首を重力に逆らって挙げる
自分の力で寝返りができる
上記の順に動作ができなくなります。
対象の高齢者がいま何ができているのか・何ができないのかを確認することで次にできなくなることが理解できます。うめ子さんを例に具体的に解説します。
うめ子さんの例
立っているだけでも周囲から見るとふらふらして危険だとします。
上記で述べた順にできなくなるので「じゃあ次にできなくなるのは立ち座りだからベッドの周囲やソファ周囲やトイレに立ち座りしやすいように手すりか何か掴まれるものを置くか検討しよう」「立っているより難易度が高い歩行は危ないので車いすにしよう」といったように具体的な対策ができ、転んでしまう前に対策をとることができます。
高齢者は転んでしまうと約10%の確率で骨折をしてしまうという報告や要介護状態になる要因の1つに転んでしまうことがあるように転ばせないことが非常に重要となります。
不幸中の幸いで大きなケガがなくとも、一度転んでしまうとその後はまた転んでしまう危険性が数倍になるとの報告もされています。
一度でも転ぶことを経験すると転んでしまうことへの恐怖から運動をしなくなったり、外出を控えてしまい、より危険性が増してしまうという悪循環が形成されることからも転ばせない環境が非常に重要です。
おわりに
残念ながら現在の医学では加齢に勝つことはなく、病気などがなければ一律全員がこの過程を辿ります。自分の両親や祖父母がこの過程を辿り少しずつできないことが増えると、本人と同様かそれ以上にショックを受けるのは容易に想像がつきます。しかし、抗うことは現状では不可能なのでこの過程をゆっくりと下っていけるように支援することが重要だと私は思っています。